皆さんは、「フッテージ」という言葉を聞いたことがありますか?
テレビの業界では、映像や動画などの素材のことを「フッテージ」といいます。具体的には、特定の映像素材や映画の一部のカットなど、番組制作において編集の際に使用される映像の断片やシーンを指します。また、このような「フッテージ」をメインに構成されている番組をフッテージ番組と呼ぶこともあります。今回は最近増えてきているフッテージ番組にスポットを当ててご紹介したいと思います。
フッテージ番組とは?
YouTubeやInstgram、TikTokなど、誰でも簡単に動画を投稿・拡散することができるようになった昨今、SNS上で流行した動画や動物のかわいい動画、海外の面白い動画、衝撃動画などを、芸能人がスタジオなどで視聴し、視聴者は動画とともにそのリアクションを見て楽しむ番組が多くの局で数多く制作、放送されています。
具体的には…
・「笑える!泣ける!動物スクープ100連発」(TBS系列)
・「世界衝撃映像100連発」(TBS系列)
・「世界アニマル&キッズ動画スペシャル」(テレビ朝日系列)
・「超ド級!世界のありえない映像大賞」(フジテレビ系列)
・「あなたはこの衝撃に耐えられる?ワールドドキドキビデオ」(日本テレビ系列)
・「世界まる見え!テレビ特捜部」(日本テレビ系列)など
放送にあたって必要なリサーチ
フッテージ番組を放送するにあたって、ADはただ動画を探し、見つけるだけではなく、さまざまなリサーチをする必要があります。
では、具体的にどのようなリサーチをしているのかご紹介していきます。
動画を探す
そもそも放送する動画素材を見つけることができなければ、番組が成立しません。そのため、ADは何日間も動画サイトやSNSをチェックして、1日数十本、数百本もの動画を視聴し、番組の趣旨に合った動画を探し出します。
また、映像などの素材を取り扱う会社というのもあり、一般的にフォトエージェンシーと呼ばれているのですが、中でも、日本だとアフロ、ゲッティ、アマナイメージズなどが有名です。
番組内で放送される際に、画面の右上や左上などにクレジットとして、社名やサイト名が表示されていることもあるので、名前を知っている方も多いでしょう。
また、海外の動画を探す場合には、News flare、Jukin media、LPE360などの海外サイトや、FailArmy、ViralHogといったYouTubeチャンネルなどを使用することが多いです。
他にも、同局他局を問わず、面白映像や衝撃映像を扱った番組を視聴し、使えそうな動画があれば動画サイト等で同じ動画を見つけ出す、という方法もあります。
このようにしてADが見つけ、リストアップした動画をディレクターが視聴し、評価をつけます。ディレクターが高い評価をつけたものは、総合演出がチェックし、使用するかを決定します。特に面白動画は、視聴する人によって評価が大きく変わることもあるので、番組で使用する本数の何十倍も探さなければならない、なんてこともしばしばです。
国名の調査
番組によっては、動画を紹介する際に国名を表示しているものもあるので、国名の調査が必要とされる場合もあります。
どの国で撮影されたものなのか、サイト等に明記されているものもありますが、サイトに国名の表記がない動画やSNSで見つけた動画など、中には自分たちで調べなければならないものもあります。サイトに表記がないものは、ニュースサイト等の記事になっていないか、
SNSで見つけたものは、動画サイトに同じ動画が掲載されていないか、動画のスクリーンショットから画像検索をしたり、動画のキーワードになりそうな言葉で検索をかけたりします。
裏どり
この裏どりは衝撃映像を扱う番組で特に重要になる場合が多く、実はとても時間のかかる大変な作業です。
衝撃映像を使用する番組を視聴したことがあれば、ナレーションやテロップなどで、衝撃映像に至った原因や、負傷者の有無などを紹介していることがあるかと思います。この情報も、ADがネットなどで情報収集をする「裏どり」で入手していることが多いです。
サイトに動画の詳細が掲載されていれば、その情報を活用することができますが、そうでない場合は、国名の調査と同様に、画像検索やキーワード検索をおこない、該当の動画をネタにしている記事や、掲載者本人のSNSなどを調べ、正確な情報を入手するための努力をします。
余談ですが、海外の動画を多く扱う番組では、英語のサイトや動画、記事などを目にする機会が非常に多いです。英語のスキルがある方は、「この動画で言っていることを翻訳してほしい」「英語表示のサイトで並べ替えのやり方を教えてほしい」など先輩ADやディレクターから頼りにされることもあるかもしれません!
また、リサーチ会社に、フッテージのネタ探しから許諾の確認までを外注する場合もあります。
動画を使用する上で気を付けること
番組で使えそうな良い動画を見つけることができても、そのまま使用できるパターンは数少ないです。どの動画にも撮影者がいて、動画を使用する際には、その撮影者とデータの所有者両方に使用許諾を取らなければなりません。すべての動画に「著作権」と呼ばれる権利が存在しています。
動画の権利とは?
個人や企業によってオリジナルで創作されたものは「著作物」となり、これを創作した人は「著作者」となります。動画も同じように著作者による著作物です。
著作物を創作したことによって生まれる著作者の権利は、人格的な利益を保護する「著作者人格権」と財産的な利益を保護する「著作権」に分けることができます。
著作人格権:著作者の精神的利益を守るためのもので、著作物の公表方法を決めたり、他人に勝手に改変されない権利。他人に譲渡できないため、必ず著作者に帰属する。
著作権 (財産権):著作者の財産的利益を守るためのもので、著作物を放映、展示、翻訳、二次使用などができる権利。原則的には著作者に帰属するが、譲渡可能な権利のため、合意があれば権利を移すことも可能。
確認しなければならないこと
著作権に含まれる、著作物を放送したり、有線放送したりする権利である「公衆送信権・公の伝達権」や、著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利である「翻訳権・翻案権」などは、番組を作成する際には必ず確認する必要があるでしょう。
また、著作権には国境はないため、海外の著作物を使用する場合にも確認しなければなりません。
このように著作物である動画には、著作権が存在しており、テレビ番組で放送するためには以下のような項目を確認する必要があります。
・元素材の撮影者、所有者に権利の確認をしているか?
・映像の加工の許可はもらっているか?
・見逃し配信を行うTVerや、U-NEXTなどの配信サービスで配信することができるか?
・動画内で使用している音楽の著作権に問題はないか?
・クレジットは必要か?
⇒クレジットを入れる場合、指定されたものと一言一句間違いはないか?
また、著作権とともに確認が必要になるのが、「肖像権」です。
肖像権とは誰でも、承諾なしにその容貌や姿態を撮影されない自由を保護するための権利です。一般人が簡単に動画を撮影し、アップロードできる現代ではたびたび話題になりますが、番組の制作にあたってはもちろん、動画内に映りこんでいる人やモノ、場所の肖像権を侵害しないよう確認する必要があります。例えば、神社・仏閣が映っている動画は、動画自体の著作権の確認だけでなく、神社・仏閣自体の許諾をとらなければなりません。
権利の確認を怠ってしまうと…
番組で動画を放送するにあたって、著作者に確認しなければ、トラブルになってしまったり、刑事上の罰則を受けたりしてしまうことに加え、番組や放送局の社会的信頼を失うことにもつながりかねません。
このような番組を制作する上で重要なのは、とにかく何度もチェックをすることです。使用する動画はリストを作成し、スタッフ内で共有し、何度もプレビューして確認します。また、ADやディレクターだけでなく、プロデューサーや総合演出など多くの人が確認作業を行います。
まとめ
今回はフッテージ番組についてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか?
ここ数年でフッテージ番組と呼ばれる、動画素材を使用した番組は多くの局で放送されており、その裏では、ADやリサーチ会社が動画探しから裏どりまで多くのリサーチを行っていることが多いです。また、著作権や肖像権の確認など怠ることのできない作業も多く存在しています。権利の侵害や情報の捏造などが起こらないように徹底することが必要です。