普段、何気なく見ている映画の予告動画。映画の本編映像をつなぎ合わせただけだと思っていませんか?あまり知られていない予告動画の制作ですが、誰がどのようにして作っているのでしょうか。
今回は予告動画が完成するまでの制作の流れや難しさ、必要なスキルなどをご紹介していきます。
予告編制作とは
映画の予告動画制作は、文字のとおり映画の予告編を作る仕事です。映画館で本編上映前に流れる2~3分のものから、テレビCMで流れる短いものまで、さまざまな長さの予告編を制作します。
「これは観たい!」と人々に思わせるように、映画の魅力を存分に伝えながらも、内容が分かりすぎないように情報をセーブするバランス感覚が腕の見せどころ。なお、映像素材は映画会社から提供されますが、ナレーションや音楽、文字情報などは自らアイデアを出します。
予告編は誰がどうやって作るのか
そもそも、映画の予告編は誰がどのようにして作っているのでしょうか。かつては若手の助監督の仕事でしたが、現在では本編の制作スタッフとは別の会社で、映画予告編を専門とする制作会社が作っていることがほとんどです。予告編動画は、スタッフがひとりで監督、脚本、プロデュースまでこなし、映像を作ります。では具体的にどのように作っていくのでしょうか。
予告編が完成するまでの流れ
・「特報」と呼ばれる30秒ほどの映像を制作
作品の規模によって異なりますが、全国で公開されるような大きめの作品では、まず「特報」と呼ばれる30秒ほどの映像を作ります。最初に作品を見て、宣伝プロデューサーとの打ち合わせで「こういう感じにしたい」といった話し合いがあり、その意図を組みつつ2週間ほどで形にします。
そこから、いろんな修正のやりとりをしていきます。邦画の場合、宣伝チームだけでなく本編チームの確認であったり、俳優さんの所属事務所のチェックなどもあり、修正作業を含めてさらに1か月くらいはかかります。洋画の場合も海外のチームに確認をとるので、平均して2か月くらいで特報映像が完成します。
・「予告編」の制作
「特報」の制作が終わるとすぐに、今度は「予告編」の制作に取りかかります。特報の時と同じように制作と確認・修正などがあり、その間にWEBやSNS関連のプロモーション映像の制作や試写会告知などの映像制作もあります。その作品が小説原作の場合、書店で流すための作品紹介の映像を作ることもあります。制作まで2~3か月かかります。
・TVで流れる「TVスポット」を制作
「予告編」の制作が終わると、今度は公開直前にCMとしてTVで流れる「TVスポット」の制作に移ります。他にもラジオCMや、最近では初日舞台挨拶の映像を組み込んだ「大ヒット公開中」の映像を作ったりすることもあるので、映画公開のギリギリまで、公開後も仕事をすることがあります。
トータルで見ると、ひとつの作品に半年から1年弱くらいの時間、関わることとなります。
その他の制作作業
予告編制作において、他にはどんな作業があるのでしょうか。
・担当作品の本編を繰り返し見る
人によりますが、担当する作品の本編は、多い人だと合計10回以上見ることもあります。プロセスの中で「抜き」という作業があり、「このカットは使えそう」「これは使わないな」という感じで、ひとつひとつ選り分けていくのが目的です。時間がかかる細かい作業な分、必要なシーンのみを手元に残すことができ、本編全体を見直す必要がなくなります。しかし長くその作品に携わっていると、感覚が慣れてしまう場合があります。そういう時に「いや、もっと違う方向性、角度があるんじゃないか?」ともう一度、最初から作品を見直します。
・文字で予告編全体の「構成」を書く
ディレクターごとに変わってきますが、文字で予告編全体の「構成」を書くこともあります。漠然と頭の中にある「こういう感じ」というのをきちんと整理し、枠を作ります。実際に予告編を作り始めてみると、なかなか設計図の通りにはいかないことも多いですが、その“枠”を作っておくと、その後、修正が入った場合でも、何がダメだったのかが理解しやすくなります。
・キャッチコピーやナレーションのセリフを考える
予告編の中だけで使われるようなキャッチコピーやナレーションのセリフを考えることもあります。宣伝プロデューサーが渡すこともありますが、必要に応じて自分で考えます。「作ってください」と言われる場合もあれば、「試しに入れてみましたが、これでいかがですか?」と提案することも。そのため、言葉を考える能力が必要になってきます。中には「名コピーライター」と呼ばれている人もいるくらいです。
制作で難しいことは?
予告動画の制作において難しいことは何でしょうか。制作側が、「この映画はここがいい」「この映画のよさはここ!」と感じた部分を予告編で出せない場合も時にはあります。それは宣伝プロデューサーの狙いや宣伝の方針、監督の意図などにもよります。そういう場合、制作側が先方の要望に合わせていくことになりますが、制作側が感じている作品のよさや面白さと、宣伝チームの方針のズレ、ギャップを埋めていく、寄せていく作業というのがいちばん難しいところです。
もちろん、ウソをつくというわけではありませんが、時にあえてミスリードをしたり、作品本編とは異なるテイストの予告編にしなくてはならない場合もあります。ただ、それがあまりに度を超えてしまうと苦戦します。過剰に盛ったり、ウソをつくと絶対にバレますし、ましてや今の時代、悪い評判はあっという間に広まってしまいます。しっかりと本編に描かれていること、本編の魅力を選び出して、そこに“売れる要素”というのをしっかりと絡めてやっていかなければなりませんが、その兼ね合いが難しいところです。
向いている人や必要なスキル
予告動画の制作にはどんな人が向いていて、どんなスキルが求められるのでしょうか。
映画の予告編の出来栄えは、興行収入や観客動員数に影響を与えます。その映画の持つ中心的なメッセージや、物事の大切なポイントを見極めて、それを抽出しコンパクトにまとめられる人が向いています。キャッチコピーや視覚的な印象も重要なので、効果的な言葉の使い方や美的センスも求められます。世の中のニーズに対して、幅広くアンテナを張り、人々の興味の対象が何であるか常に情報収集を行う能力も必要です。
まとめ
映画の予告動画制作の仕事はあまり知られていませんが、映画を盛り上げるうえでは重要な役目を担います。映画の宣伝にも携わりつつ、作品づくりにも深く関係する総合的な仕事ですよね。いろんなことができる仕事なので、狭い世界だと思わずに、興味を持って飛び込んでみるのもいいかもしれません。